「就活人」へ告ぐ!!!

なんか周りに富士通の動向が気になってる人がいるようなので転載。日経ビジネスのメルマガさんの記事です。

(以下転載)

2004.02.09 UPDATE

大学生は富士通がお好き? 春の珍事に見る「揺り戻し」の予兆




  春の珍事である。
  1月26日の日本経済新聞第二部の1面に掲載された就職希望ランキングには驚いた。総合7位に、富士通がランクインしているではないか。昨年の68位からの大躍進である。

  調査は日本経済新聞社広告局が、全国の2005年春卒業予定の大学3年生を対象に昨年末に実施したもの。1位JTB、2位サントリー、3位トヨタ自動車、4位全日本空輸、5位ソニー、6位JAL――。誰もがなるほどと思うであろう上位常連企業の間に、突如として富士通が割って入ったのである。関係者の方々には失礼ながら、正直言って「一体全体なぜ?」と狐につままれたような…。

  男女別では男子3位(昨年51位)、女子22位(同103位)、文理別でも、理科系3位(同17位)、文系24位(同102位)と、学生の間で富士通は人気急上昇銘柄の筆頭と言っていい。

▼今の富士通の「良き」イメージは何か

  客観的に見て、今の富士通は創業以来の苦境にある。

  前社長の秋草直之氏(現会長)の時代にハードウエアからソフトウエアやサービスへと事業構造の転換を図ったのは時流ではあったが、あまりにも性急過ぎて、かつて米IBMと互して戦った時代の「モノ作り企業」の誇りまで見失いかけた。

  90年代初頭に他社に先駆けて成果主義を導入するなど、変革への意気込みと挑戦的な行動力で光輝いた時期もあったが、目標を楽に達成できるようにレベルを引き下げて申告する社員が続出。かつて「野武士」と呼ばれた社員の士気は少しずつ削り落とされていく。

  昨年6月に黒川博昭社長が登板したが、就任から半年以上経った今も、富士通がどう変わろうとしているのか、どう変わってきているのかという明確なメッセージは黒川社長から発せられていない。今期は最終赤字からは抜け出せそうだが、力強い回復力にみなぎっているというわけではない。

  そんな富士通が…。この「異変」について、日経の記事(広告特集)はほとんど触れていない。富士通については、「通年採用で学生から最も評価された」と短い分析を加えているだけである。

  さっそく富士通広報室に聞いてみると、「ああ、あれですか。うちもリクルーティングには力を入れてますからね」と余裕のコメントが返ってきた。

  う〜ん、どうも腑に落ちない。今の大学生がどのぐらい企業の現実を知っているのかはよく分からない。学生が企業を選ぶ価値基準というのは往々にしてイメージ先行だとしても、今の富士通の「良き」イメージって何なんだろうか。

  富士通は同業の日立製作所NECなどに比べて、リストラが緩いし、会社を切り売りしたりしないので、「ずっと本社にいられるかもしれない」という、甘い期待が込められているのかもしれない。

  調査に答えた学生の基準も様々だろう。「どうしても入りたい会社」と「入れそうな大企業」というのでは、天と地ほどの違いがある。後者なら、就職難にあえぐ学生の保守主義もいよいよここまで来たかとがっくり来てしまう。

  そんなふうに考え始めたらいくらでもマイナスの材料が出てきそうだが、ここは1つ、プラス思考でこの珍事をとらえ直してみたい。

▼ 純国産メーカー復活に向け馳せ参じたい?

  当社発行の『日経ソリューションビジネス』の北川賢一主任編集委員がこんなことを言っていた。

  「急成長中のある中堅ソフト会社の社長によると、今の学生の中には日本のことを憂いたり、海外企業と競争して勝つということを望む学生が多いと言う。その会社に応募してきた学生と面接すると、"日本のために頑張りたい"とか"海外企業に勝つための仕事をしたい"という言葉がポンポン飛び出てくるらしい」

  純国産の富士通人気もひょっとしたらそういう学生の気持ちの現れなのかもしれない、外資系の日本IBMの人気低迷とも重なる、と北川氏は言う。

  まるで「勤王の志士」みたいな憂国の学生が、苦境にある日本経済の代表選手のような富士通に馳せ参じようとしているってことか――。それはそれでちょっと薄気味悪いような気もするが、ソニーや松下、キヤノンを志望するのとは別種の覚悟と志を持つ学生が増えているからこその富士通上位入賞なのだろう。

  「揺り戻し」――。まだ大きな流れを視認できるほどではないが、そんな現象がIT(情報技術)の世界で起きつつあるのではないか。

  グローバルに見れば、日本は欧米にITで席巻された感があるが、外資系IT企業にも一時ほどの神通力は見られなくなってきている。

  一例は、ERP(統合基幹業務システム)での逆襲。大抵の大企業が欧米企業の高額なERPパッケージを導入しているが、利用が進まない、投資に見合った効果を上げていないなどという話をあちらこちらで耳にする。日本企業の業務慣行を欧米型の枠にはめようとしたことに無理があったのが一因だが、そこに参入チャンスを見いだして日本の企業風土に合わせたソフトで急成長している日本のソフト会社が次々に登場。世界逆進出を狙うところもある。

▼オープン化に代わる垂直統合の時代に向いた存在

  この20年間というもの、この業界は米国発の「オープン化」「水平分散」というお題目に振り回されっぱなしだった。特定メーカー1色に染め上げたメーンフレーム中心のシステムはコストが高く、融通が利かないとやり玉に挙げられた。オープンなシステムなら、メーカー1社に縛られることなく、この部分はA社、あの部分はB社というように、機能ごとに最新・最適・最高の技術と製品を組み合わせることができる。高性能なシステムを安上がりに構築できるというバラ色のコンセプトだった。

  最初は絶大な効果を上げた。しかし、だんだんと簡単な話ではなくなってきた。まず、ユーザーが音を上げたのである。よほど高いスキルがないと、複雑化する情報システムをきちんと管理・運用できないのである。個別に発注して組み合わせる手間暇をかけてコストを浮かせるよりも、特定のメーカーに"丸投げ"した方が楽だし安心。一昔前ほどコストも高くない――。ユーザー側の揺り戻しである。

  だから、最近のコンピューターメーカー各社は、「サービス、サービス」とあまり言わない。サービスというのはつまり「自社製品にこだわらず、オープンなシステム構築に対応します」というユーザー向けの宣伝文句なのだが、今ではむしろ、メーンフレーム時代のような「垂直統合」、つまりハード、ソフト、サービスを総合的に提供する仕組みの発表が相次いでいる。

  もし、この揺り戻しが本格化すれば、コンピューター業界の大再編が起こる。「そう考えると、富士通というのは、ハード、ソフト、サービスの総合力とグローバルというキーワードを全部揃えている。規模は小さいが、日本のコンピューターメーカーの中で最も米IBMに近い」とは、北川氏からの受け売りである。

ビジネスパーソン向け調査では上位に入れず

  富士通への就職を希望する学生が20年に1度の日本逆転のチャンスを織り込んでいたとしたらそれこそ驚きに値するが、これがNECでもなく日立製作所でもなく、富士通であったことは、単なる春の珍事と片づけてしまうには惜しい気もする。

  ちなみに、日本経済新聞社が現役ビジネスパーソンを対象に実施した「企業イメージ調査」では、上位50位に富士通の影も形もなかった。将来を見通す感性の違いか、はたまた現実を直視する洞察力の違いか――。



(水野 博泰)

(転載ここまで)