翻訳会の分析

今回の会は適当な企画の割りに評判がよい。
なので、ちょっとよさをランダムに分析してみる。

1.みんな読解力を伸ばしたがっている
皆漠然と読解力を伸ばしたがっているが、
じつは中級以降読解力を伸ばすのは結構しんどい。
和訳の機会提供には潜在的なニーズがある。

2.バリー・ユアグローが面白い
それほど有名な作家ではないが、
シュールな内容、コンパクトな文章、圧倒的な短さという
特徴を備えたユニークな作品をたくさん書いている。
初期の筒井康隆のような内容で
(「傷ついたのは誰の心」みたいな感じ)
星新一のような短さの作品と思っていただければよいでしょう。

3.1時間という時間制約
超短編とはいえ訳すのはしんどい。
1時間という制約の中で作業すると
受験的なスリリングな面白さが発生します。

4.それぞれの翻訳を講評する
翻訳が終わったら交換しあって講評する。
同じ文章を他の人がどう訳しているか
解るので、違った角度から作品が楽しめる。
自分の誤訳に気づいて悔しがるのも一興。

5.柴田元幸大先生の日本語訳という模範解答がある
せっかく翻訳しても答えがわからないと不安。
この本は柴田先生の翻訳がすでにあるので、
書き終わった後、答えあわせができる。
「さすがはプロの仕事!」というときと、
「それはどうなのか?!」というときがあって、それも楽しい。

6.いい加減な参加スタイル
集合してから本をコピー、適当なカフェにはいって翻訳開始。
という完全その場主義により、適当な参加表明ができます。
ドタキャンもぜんぜんオッケー。
私は一冊ノートを用意したが、ぺらの紙に書いてる人、
自分のメモ帳に書いてる人などばらばら。
でも辞書は持ってきた方がよいね。


こんなところでしょうか。
ちなみに6の柴田訳に関しては、
これまでのところ「名訳!」と思ったのは「牛乳」の1段落目の最後のところ。
"He bundles them up and stuffs them down the appropriate cavity,
thinking slyly of how they'll end up."を
「服をまるめてしかるべきへこみに押し込む。服の運命やいかに、と男は考える。」
と訳したところ。
"thinking slyly"=「皮肉っぽく考えながら」という間接話法の分詞構文を
「服の運命やいかに」というそれ自体が皮肉っぽい直接話法の文に
変換するというおしゃれさ。さすがです。
"appropriate"を「しかるべき」と訳すのも通っぽいですね。


逆に評判悪かったのは今回翻訳した「宿命の女」の中盤。
"After we have necked a bit,
I suggest she go to the bathroom and prepare herself."というところを
「しばらくネッキングをしてから、
私は女に、バスルームに行って準備しておいで、と持ちかける。」と訳したところ。
「ネッキングってなんだ」「そんなんいわねーよ」という反応でした。
この辺のニュアンスが翻訳の難しい/面白いところですよね。
ちなみにこの文の"I suggest she 「go」 to the bathroom"のあたりは
ちょっと難しい仮定法現在というやつで文法マニア垂涎ですね。
行動促進の動詞の後に来るThat節内では、
「原型」または「should+原型」を使うという謎のルールです。


該当箇所の私の訳は以下の通り。素人くさくてお恥ずかしいですが。
「牛乳」第1段落。
「くつ下を一つにまとめると、適当な穴におしこむ。
これって最後どうなっちゃうんだろう、とおちゃめに考えながら。」
※「くつ下」は「服」の誤訳。指示語のとり間違い。


「宿命の女」中盤。
「ちょっといちゃついてから、
私は彼女にバスルームにいって準備してくるようにうながす。」