らも-中島らもとの三十五年

無頼派の作家中島らもの奥さんである中島美代子さんが書いた「らも伝」。
35年の日々を描くわけだから、無論自伝にもなっている。
素晴らしい作品なのでらも好きな皆さんにぜひ読んでいただきたい。
傑作である。


美代子さんは中島らもの小説やエッセイに時として登場するが、
いくつかのエピソードが知られているだけで、
らも周辺の人としては珍しく情報がない。
空白が輪郭になっているというような人だった。
小説の中で人柄がある程度詳しくわかるのは
晩年の『バンド・オブ・ザ・ナイト』くらいではないだろうか。
ただ、私はなんとなく天真爛漫で魅力的な人だなと思っていた。
今回この本を読んでその思いは強くなった。


この本の中でショックだったのは
中島らもと元マネージャーわかぎゑふとの不倫関係。
二人が仕事のパートナーだったのは
エッセイなんかを読んでいてよく知っていたが、
こんなにも深い愛人関係だったとは知らなかった。
まあ周囲の人はみんな知っている仲だったのだろうが、
一読者としてはあんまりそういう想像はしておらず、不覚。
というかなんからもとふっこは性格あわなそうだなーという
印象を受けていたのだったが。


奥さんの美代子さんはNHKの番組で見たときは
要するにおばちゃんだなと思ったのだったが、
今回若き日の写真をはじめてみたら
ほわっとした感じのかわいいお嬢さんである。
エッセイを読んでいても
ふわふわした感性の人らしいのがよく伝わってくる。
若き日の中島らもとはいかにも気が合いそうである。
性的に奔放なのもいいですね。私好みです。


出会いや新婚時代を描く前半は幸福な話だが、
中盤以降成功していく中島らもわかぎゑふと出会い
次第に家庭が荒んでいくあたりの描写も凄まじい。
美代子さんは淡々とした筆致で書いているが、
(憎しみをことさらに感じないのが
おそらく誰もこの人の優れた才能なのだろう)
まるで中島らもの敬愛したバロウズのような
水気のない美しい文章である。


美代子さんは家庭の人としては
いたらないことも多かったのかもしれないが、
おおらかで素晴らしい女性だと感じた。
こういう人と共に暮らすことのできたらもは幸福者だ。